奥社の杜をつなぐ

「杜の概要」

戸隠神社奥社の杜は、随神門から約500メートルにわたって200本以上のスギの巨樹が続く杉並木がその象徴として広く知られます。スギの他、ハルニレ、シナノキ、ブナ、トチ、オオヤマザクラ、ハンノキ、ミズナラなどの落葉樹、モミ、イチイ、ウラジロなど針葉樹からなる154,000坪に及ぶ広大な自然林です。杉並木は、人の手になるものですが、その起源はいつごろでしょう。420年を超す歴史は、いくつかの契機を経て整えられてきたと思われます。朝鮮出兵から無事帰国した上杉景勝が、戦国の争乱で荒廃した戸隠を復興した1594年ごろ。徳川幕藩体制が確立していく慶長の時期、1612年ごろ。松本藩主水野忠清が整備した寛永20年、1643年ごろ。
「奥社の杜」全域についても、寛永20年、徳川家康の側近であった天海が発給した「越後・信濃両国天台宗法度はっと条々」によって境内竹木の伐採が厳禁とされたことから、400年近く開発や破壊から守られてきました。
昭和48年「古い時代のまま保存されている」として「戸隠神社奥社社叢しゃそう」が長野県の天然記念物に指定されました。保存の条件として、林床(森林の中の地表面)に立ち入らないように求めています。つまり、この広大な社叢は、参拝者すべての財産でありますし、地球の財産として末永く守り伝えていかなければならない、ということに他なりません。

奥社の杉並木

「未来への気がかり」

地球規模での環境変化が問われて久しくなります。いわゆる温暖化です。戸隠スキー場は「魔法の粉雪」と呼ばれる乾いた粉雪・パウダースノーで有名ですが、重たい湿った雪が降ることもあるようになりました。奥社の杜では、平成26年2月の大雪で樹齢約250年と推定されるミズナラが根元から倒れました。翌年には杉並木の中でスギが雪害で倒れています。
また、温暖化によって木々を腐朽ふきゅうさせる菌が繁殖しやすくなったことが報告されています。
この杉並木は、平成22年秋に放映された、吉永小百合さんのテレビコマーシャルの舞台として知られます。その魅力が伝わると、参拝者が急増。全国各地から善男善女が訪れる日本有数の観光スポットとなりました。真に有難い状況が続く中、専門家の指摘が気がかりとなったのです。多くの人の踏圧とうあつにより、根が成長しない、新たな根が生えにくい、という樹勢への影響です。
そんな矢先、去年10月に巨大台風が日本列島を縦断しました。台風21号。北寄りの暴風が吹きつけた奥社の杜では、参道沿いで、モミ、ブナそれぞれ1本ずつに加え、杉並木で3本のスギ巨樹が被害にあいました。昭和34年の伊勢湾台風で7本のスギが根ごと倒れて以来、複数本の倒木被害は確認されていません。また、3本のスギはいずれも5〜10メートル付近の幹の途中から折れてしまったのです。樹勢が弱まったところを暴風に見舞われたのが原因と思われます。

台風21号による被害

「未来への取り組み」

平成21年、この杜を未来へつなげていこうと、地元有志により「戸隠奥社の杜と杉並木を守る会」が結成されました。当神社の宮司が会長を務め、現在会員は40名。同年春から、随神門から奥社方面に500メートル、左右それぞれ50メートルの5ヘクタールの区域で直径5cm以上のすべての樹木の植生調査を実施しています。樹種、位置、胸高直径、樹木の健康度を記録し、スギを育む杜の基礎情報の収集に努め、奥社社叢の樹木分布図がまとめられました。その後の社叢全域での巨樹の調査で、胸高直径が1m以上のいわゆる巨木が600本を超すことが明らかになりました。その半数以上がスギで、最大の巨樹は直径227cmです。
昨年の台風21号を前後して、樹木医による調査と音響波による診断が行われ、本年夏ごろには、参道地下の根の状態を観察するため試掘調査も予定されています。

通称ミズナラ大王

域内随一の巨木ブナ

「杉並木を守ろう」Save Cedars Avenue of TOGAKUSHI

今後、「守る会」では社叢林を未来へ受け継いでいくために、保存活用計画を策定し、継続して樹々の調査、古木の伐採、枝打ち、キノコや腐朽菌の処理などを行っていく予定です。保存活用計画では、「本質的価値の保存」と「信仰の杜としての活用」双方の両立が求められるでしょう。特に杜の象徴、杉並木の保護が大きな課題となります。本年までの調査結果をもとに、杉並木の土壌改良に取り組んでまいります。踏圧の影響を受けない参道とするための工法も検討されることとなります。
400年の長きにわたり、私たちの営みを見つめ続けてきた巨樹。天然記念物というだけでなく、文化的遺産というだけでなく、私たちの誇りでもあります。立春と立冬には、随神門〜参道入口の鳥居の延長戦上から朝日が差し昇ります。先人の知恵を探っていくことも保護活動の助けとなるに違いありません。
どうかこの取り組みにご支援を賜るとともに、更なる400年に向け、長く見守っていただきますようお願い申し上げます

ハルニレ

立冬の御来光